33歳の時にロンドンのハーレイ街にある、恵まれない境遇にある女性家庭教師たちのための病院での総監督という仕事が、ナイチンゲールにとっての看護という仕事のスタートです。しかし、病院運営は貴婦人委員会と紳士委員会の対立により病院経理は乱脈を極め、さらに病院の管理運営のあり方も混乱を極めていました。ナイチンゲールには、病院の建て直しとその健全な運営という2つの問題を解決するよう求められていたのです。
就任するにあたって、ナイチンゲールは両委員会に次の3つの事を求めました。
①温水用の配管を各階に引くこと
②患者の食事を上階に運び上げるためのリフトを設置すること
③現在のナースコールの原型である弁付き呼鈴を設置すること
このようにナイチンゲールは総監督として働く条件として、まずは病院の設備面の充実を訴えました。そしてまず手懸けた仕事は、古い建物から運ばれてきた家具や、洗濯された形跡がなく汚れてぼろぼろのリネン類の点検です。そこで、新たに作ったり洗濯したりして使える状態にすることでした。
次に台所の改善です。適当な調理器具を揃えることから始め、保存食を作ったり、パンやビスケットを焼いたりして、健康面を重視した視点を取り込んでいきます。さらに改革は経済面にも及び、物品購入のシステムを点検して無駄を省いた購入方法に切り替えたり、賃金の額や支払方法を考案したり、不適切な看護師や使用人を解雇したりとナイチンゲールの改革視線は、あらゆる側面に注がれています。こうして人材や設備が整ってくるに従って、彼女の目は徐々に一人ひとりの患者に向けられていきました。
ナイチンゲールの具体的実践の姿は、彼女自身が貴婦人委員会へ出した監督者からの季刊報告書に記述されています。季刊報告書には必ずその時期に入院している患者数と退院した人数、退院者の病名や退院に至った経過などが明確に記されており、入院患者の特徴の全体像を記して、彼女たちの健康を回復させ、社会へと送り出して行くにはどうすべきかを考察しています。ナイチンゲールは1年間このような経験をし、戦地へと赴くことになります。
スクタリの病院は、総延長6kmもの長さでベットが並べられ、1つの町のように配置された建物でした。ですが、それは不潔で汚れきり腐敗しかかっていました。そのこともあり、ある時期の患者数は平均2,349人で、同じ期間中に2,315人が死亡するという非常に高い死亡率だったのです。そしてナイチンゲール看護団は、従軍当初ほとんど機能しませんでした。それは陸軍組織によって運営されていた管理システムの中では、個人が個人の判断で自由に動くことができなかったからでした。手をこまねいている間に失われなくてもすんだ多くの生命がいたずらに失われていきました。
ナイチンゲールは「看護部門の総責任者」という立場に忠実であろうとしていました。ですが陸軍病院においては、病院の規律に絶対的な支配権を持っていた陸軍当局と医師団の許可なしには、看護部門は何もできず、看護に必要な物資の確保すら許可されないという状況に置かれることを意味していました。
その状況が一転したのは、陸軍当局と医師たちがナイチンゲールとその看護団の力を借りない限り、事態の収拾が絶望的であることを悟り、ナイチンゲールに救いを求めたことによります。自由に活動する権限が与えられるとすぐに、ナイチンゲールは活き活きと動き出し病院改革と看護改革に乗り出します。伝記作家のセシル・ウーダム-スミスは、「病人の大群が雪崩込んでくれば、彼女は24時間ぶっ続けで立ち働き、怪我人に包帯をするために8時間もひざまずいていた。(中略)その冬2,000人もの患者の臨終に付き添ったし、最も重症な患者は彼女自らが看護に当たった。」とナイチンゲールの看護について記しています。この献身的で不眠不休の看護が、兵士たちの心に響きクリミアの天使とまで呼ばれるようになるのです。戦争が終結するまでに成し遂げた業績は、具体的に死亡率の低下として示されたのをはじめとして、その療養環境の変化は誰の眼にも明らかでした。ナイチンゲールは、こうした事業を約1年半でやり遂げ大きな変革をもたらしたのです。当初はナイチンゲールとその看護団を頭から信用せず、拒否していた医師団をはじめとして周囲の人々が驚嘆したのは無理もありません。このことは、ナイチンゲールが優れた管理者である確固たる証拠です。
ナイチンゲールは看護師として画期的な看護方法を確立し実践した人なので、看護師のイメージが強いですが、看護師の実働年数はほんの2年半でした。実際は管理者として優秀な人だったようです。彼女の管理者としての功績も調べてみましょう。
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